外部メモリカードの一規格である「SDメモリーカード」。その物理的ミニサイズ版である「microSDカード」、その容量拡張版である「microSDXCカード」はスマートフォン、タブレットなどの外部メモリとしてこの10年、親しまれてきた。そのmicroSDXCが規格上限である2TBに達し、外部メモリ最大容量製品としての役割を終えようとしている。
[推敲度 5/10]
今年2024年3月、キオクシアからmicroSDXCの上限容量である容量2TB(2テラバイト)の製品が発売された。
・大容量2TBのmicroSDXCカードが遂に登場!キオクシア「EXCERIA PLUS G2」シリーズ – AKIBA PC Hotline!
またサンディスクからも製品が登場し、10月には4万円を切る価格になっている。
・SanDiskのmicroSDXCカードに大容量2TBモデル、価格は39,900円 – AKIBA PC Hotline!
・ASCII.jp:超高速な2TBのmicroSDは約4万円! SanDisk「Extreme PRO」の2TBモデル入荷
容量の大きなmicroSD製品が出るたびに数万円を出して買ってきた自分、容量が大きな製品が出ることを喉から手が出るほど心待ちにした時期があった自分としては、microSDXCカードで上限容量の2TB(2テラバイト)製品が出たというのはなかなか感慨深いものがある。
この10年、SDXC、microSDXCという規格が続いていたため、この一つの「時代の終わり」がピンときてない人もいるかもしれないし、そもそも「SDカード」「microSDカード」は知っていても「SDXC」「microSDXC」というのを知らない人も多いかもしれない。
本記事ではSDXC、microSDXCについて解説がてら自分の思い出話を書き、また来年登場が予告されている次世代SDカード規格(SDUC、microSDUC)について述べたい。
【目次】
3■SDUCカード、microSDUCカードは「原則」機器側での対応が必要
5■microSDカードの容量拡大のペースはペースは?~発売後1年以内には買ってきた自分
7■終わりに
【本文】
1■XCとはなんぞや?
SDXC、microSDXCの「XC」であるが、そもそも2000年頃、最初に登場した初期の「SDカード」「microSDカード」は容量が最大「2GB(ギガバイト)」(注:2TBではない、2TBの1000分の1)までを前提に作られた規格であった。しかしこの「2GB」というのはこのころの実際の容量ではなく「この規格で作れる最大の容量」という意味である。当時、実際の製品の容量は「GB」ですらなく「MB(メガバイト)」の時代であり、実際には8MBとか16MBの製品だった。(最初の製品は2000年に発売。ちなみに自分の手元に残っている初期のSDカードの容量は数年後に買ったと思われる128MBである。)
「外部メモリーカード」は当時様々な種類があり、「SDカード」はその中の一規格だったに過ぎない。たとえば自分のデジカメの1台目(1999年頃購入)はSDカードではなく「コンパクトフラッシュ」だった。
現在、スマホやデジカメで写真を撮ると、1枚5MBとかの容量を必要とする。最初の頃の8MBとか16MBとかの製品であれば「現在のデジカメ写真なら」数枚しか(!)入らなかったわけだ。
数枚撮影してはパソコンに転送してた?。勿論、当時のユーザーはそんな不便なことを被っていたわけではなく、2000年くらいはデジカメも性能が低く、自分のデジカメ写真を見ると写真1枚200KB(=0.2MB)ほどだったようだ。これだと世間で最初のSDカード8MBであれば40枚程度は入ったことになるし、自分が最初に買ったSDカードと思しき128MBであれば500枚は入っただろう。
SDカードはその競合規格に比べるとそのコンパクトさから携帯電話、PHSなどで2000年以降採用された。スマートフォンの登場はそこから10年以上後である。デジタルカメラでは上記でコンパクトフラッシュを紹介したように当初は他の規格の方が一般的だったが、2003年以降コンパクトデジタルカメラでもSDカードが一般的になっていく。またカセットプレーヤー、MDプレーヤーを引き継ぐ携帯型MP3プレーヤーでも使われることがあった。
当時はメモリー類の容量増大の開発スピードが早く、2006年頃にはSDカードの容量は実際に規格の最大2GBに達してしまい、その結果、最大32GBまでに対応した新規格SDHC、microSDHCが登場する。だが2008年には実際のSDHC製品も32GBに達し、そしてそれを上回る容量規格のSDXC、microSDXCが登場するのである。
・世界初、ついに32GBのSDXCメモリカードが登場、その実力の一端が公開デモで明らかに – GIGAZINE(2009年3月)
・ASCII.jp:新規格SDXCカードがアキバで販売開始!(2010年2月)
すなわちSD『XC』、microSD『XC』のXCというのはもともとのSDカードの容量の規格上限に達してしまったため、その限界を突破するための新規格(拡張)の名称だったというわけだ。「SD eXtended Capacity」の略称だったとのことで、すなわち最初に登場した「SDカード」とは正確に言えば違う規格なのである(上述の通りSDXCの前には3年で最新規格でなくなった「SD『HC』」もあった。「SD High Capacity」だったとのこと。)
このSDXC、microSDXCでの規格上限が2TB(2000GB)とされたわけでる。SD、SDHC、SDXCでの規格容量変遷は
2GB→32GB→2000GB(2TB)
となっている。SDHCは上限容量がそれほど違わず短命になってしまったため、SDXCでは規格策定関係者たちは頑張って大きな上限に出来るよう工夫したのだろうか。当時、弁当箱のようにデカいHDDならいざしらず、ちっこい外部メモリーカードで2000GB(2TB、テラバイト)というのは目もくらむような大きな容量に感じたものだ。
その御蔭でその後10年、SDXC、microSDXCは規格そのままで維持され、さらにはSDカードは激しいフラッシュメモリ競争を勝ち抜き、「メモリーカード」といえばSDカード以外を知らなくてもおかしくないほどの地位を築くに至る。
そして2024年。半導体製品の容量の進歩は鈍る所あり、ムーアの法則は維持できなくなって明らかに速度を落としたが、それでもSDXCカードの一種であるmicroSDXCカードは2TBに達したというわけである。
2■次世代規格SDUC(microSDUC)とは?
SDXC、microSDXCは容量最大2TBで策定されたので、これ以上の容量の製品は作れない(らしい)。ということで、当然、次の規格が必要で、それはすでに策定されており、それが
SDUC、microSDUC
という規格だ。SDUCは「Secure Digital Ultra Capacity」の略称とのこと。この規格が策定されたのは2018年、今から6年も前だ。
次の容量上限は128TB。「テラバイト」という単位が新鮮だった時は128TBは途方もない容量に思えたが、すでにmicroSDXCが2TBに達する現在、128TBというのはその64倍。microSDXCの上限が2TB=2000GBであるが、その前のmicroSDHC規格上限が32GBなのでやはり64倍だ。もし容量増大が同じペースならば10年くらいは後継の規格は不要そうであるがさてはて。microSDXCの時の容量増大ペースについては後述の「5■microSDカードの容量拡大のペースはペースは?」で記述した。
ところで、この規格は、事実上、SDXCの容量限界を突破するために作られた規格だ。だからSDXC、microSDXCの規格で「まだ」上限製品2TBが出ていないならば、メモリーメーカーとしてはその上位のSDUC、microSDUCの製品をリリースするメリットがない。
そのために新企画SDXC、microSDXCが2018年に策定されたものの、現行規格SDXC、microSDXCの容量が上限2TBに達していなかった、達する気配のなかったこの6年間はSDUC、microSDUCについて世の中に出てくる新しい情報は全く無かった。それが今回、冒頭で書いたように2024年3月にmicroSDXCにて2TBの製品が出たということで、ようやくSDUC、microSDUCの製品の必要性が出てきたわけだ。
実際、2TBのmicroSDXCが発売された翌月の4月、ウェスタン・デジタルより、2025年にSDUCカードが発売されることが公表された。
・ウエスタンデジタル、業界初“4TB”のSDUCカード 2025年に発売予定 – デジカメ Watch
SDUC、microSDUCの製品が出てくる場合、規格上は2TBから125tbだが2TBであればSDXCで良く、SDUCで出る意味がないので3TB以上だと予想されたが、4TBとなるらしい。
ようやくSDUC、microSDUCの時代が到来することとなったのだ。
3■SDUCカード、microSDUCカードは「原則」機器側での対応が必要
「SDXC、microSDX」から「SDUC、microSDUC」の世代替わりで注意しなければならないことがある。
上で述べたように初期の「SDカード」も「SDXCカード」も「SDメモリーカード」なのだが、厳密には規格が違う。よって、初期のSDカード用に作られている装置(デジカメ、microSDなら携帯電話、スマートフォンなど)では後に作られたSDXC、microSDXCカードは使えないことがしばしばあった。これを「前方互換性」がないという。(新規格が登場する以前に作られた製品では互換性がない)
ただし新しい規格であるSDXC、microSDXCのために作られた装置では古い規格のSD、microSDカードは使えるようになっており、これを「後方互換(上位互換)」と呼んだりする。(新規格が登場してそ後に出た対応製品では旧規格も互換性がある)
SDUCでも同様な起こると予想され、microSDUCカードが、それに公式対応していない従来のスマートフォン、デジカメ、タブレットなどで使えない可能性がかなりある。
ただ、自分のSD、SDHC、SDXCのときの経験では「前方互換性がないこと」は絶対的なものではなく、microSDXC登場時にmicroSDXC使用可を謳っていない機器(スマートフォン)などでもmicroSDXCカードが使えたものもあったりした。容量の大きい最新のmicroSD(当時はmicroSDXC)を使いたくて、ネット上で「使えた」という情報を見つけて、自分も使えてガッツポーズ、というような記憶があり、実際に12年前にブログ記事に残している。
・吃驚!古機種htc EVO WiMAX ISW11HTで64GB microSDXCが使えた! | まったりハマる生活(個人ブログ)
その記事の中ではとても驚いているように、前方互換性については基本的に過度な期待は禁物だと思う。
4■近年、SDXCとmicroSDXCの最大容量が逆転
上記のようにWestern Digitalにより4TBのSDUCカードの発売が発表されたが、個人的に注目したことが1つある。それは最初のSDUCが「microSDUCカード」ではなく「SDUCカード」となるらしいことだ。
microSDカードは、SDカードのサイズ縮小版であり、サイズの小さゆえに最大容量の更新は当初、SDカードに比べて遅れがちだった。それは2010年以降のSDXC、microSDXCになっても続いた。
しかしこの十年でSDカード(SDXCカード)よりもmicroSD(microSDXCカード)の需要のほうが上回るようになったと推測される。それはSDカードを使うのが一般的だったデジタルカメラが衰退し、microSDカードを使うスマートフォンやタブレットが多くの人にとっては一般的になったからに他ならない。microSDを使わないiPhoneやその他の機種の広がりは、あわやmicroSD衰亡の道かと危惧されたが、現在でもmicroSDを使う製品は根強い需要があるようだ。
それらの動向の結果、1.5TB容量製品は、2023年にSDXCカードではなくmicroSDXCカードで登場した。私の知る限り、microSDXCの最大容量がSDXCのそれを上回ったのは1.5TBが初めてである。さらに今年出た2TBも同様で、SDXCではなくmicroSDXCで登場し、2024年11月現在でもSDXCカードでは1.5TBも2TBも出ておらず、1TBどまりである。すなわち1TBまではSDXCカードで先に大容量が出された後、しばらくしてmicroSDXCで出される傾向だったのが、1.5TB以降逆転したのである。
そういう状況の中でSDUCの製品が発表されたのであるが、それはmicroSDUCではなく、SDUCカードだった。再び、標準サイズであるSDカードの容量が上回ることになったのだ。
ただ2024年現在、SDUCカードの発売はあくまで発表段階だ。実際に製品として出るのがmicroSDUCである可能性も残っていると思う。たとえそうではなくても、もはやSDカードよりも需要がありそうなmicroSDのmicroSDUC版が果たしてSDUCに遅れていつ頃出るかというのも興味が惹かれるところだ。
5■microSDカードの容量拡大のペースは?
メモリーカードの容量拡大は近年、遅くなっているように思われる。microSDで1TB製品が出たのは2019年で、その次の1.5TB製品が出たのは4年経った2023年だ。毎年のように容量の上回る製品が出ていた昔とは時代が変わった。技術のブレークスルーが起これば、また毎年倍々の開発がされる時代も来るかもしれないが、寡聞にしてそういう話は聞かない。
自分のメモ書きから容量のより大きなmicroSDカードを買っていた年月を並べてみると以下のようになる。
microSDカード容量 | ニュース記事に見える秋葉原発売日 | 自分の購入年月(カッコは左の発売日比較。リンクはTwitter報告^^;) | 備考 |
32GB | 2010年6月 | 2011年4月(10ヶ月後) | microSDHC |
64GB | 2011年9月 | 2012年2月(5ヶ月後) | これ以後microSDXC |
128GB | 2014年3月 | 2014年3月(数日後) | |
200GB | 2015年6月 | 2016年4月(10ヶ月後) | |
256GB | 2016年8月 | 2017年8月(12ヶ月後) | |
400GB | 2017年11月 | 2018年8月(9ヶ月後) | |
512GB | 2018年5月 | 2018年12月(7ヶ月後) | |
1TB(1000GB) | 2019年8月 | 2020年3月(7ヶ月後) | |
1.5TB(1500GB) | 2023年11月 | 2024年2月(3ヶ月後) | |
2TB(未購入) | 2024年3月 | 2024年?月 | microSDXCの規格最大容量 |
このデータを対数グラフでグラフ化したものが以下である。
このグラフを見るとやはり1TBまでは比較的順調に容量が拡大していたが、1.5TB、2TBが出るのに随分時間がかかった。1TBまでの増加ペースを維持していたのならば少なくとも2021年には2TBに達していたと思われる。
ちなみに自分自身、容量の大きなmicroSDが出ると、発売後ほぼ必ず1年以内に買っていたことには驚いた。確かにこの10年間、microSDにデータが入り切らなくて大きな容量の製品が出るのを心待ちにしていた期間がしばしばあったので身に覚えのないことではなかったが、振り返ってデータを集めてみると思った以上にmicroSDXCの容量拡大毎に毎回買っていた。
ただし2024年2月に1.5TBを買ってからは状況は切迫しておらず、2TBを急いで買う必要は感じていない。とはいえ、上のデータを見ると我ながら本記事のようなブログを書くだけはある。
6■SDXC、microSDXCのこれから
では次世代のSDUC、microSDUCが登場する2025年以降、現行のSDXC、microSDXCは消えていく運命なのであろうか。
いや、それは「SDカードが存続する限り」断じて無い。なぜなら次世代SDUC、microSDUCの製品は2TB以上製品でしか登場しないので、64GB~2TBの製品はSDXC、microSDXCで作られる続けるからだ。実際、SDXC、microSDXCの前の規格のSDHC、microSDHCは32GB以下の製品で現在でも使われている。
64GB以上のSDXC、microSDXCが登場して15年以上なるというのに、32GB以下の製品の需要は未だに存在し、その結果、SDHC、microSDHCという規格は現行の規格として存続しているのだ。64GB~2TBの製品であるSDXC、microSDXCの今後も同様となるだろう。すなわちSDXC、microSDXCという規格は無くなるわけではなくて、私が本記事の冒頭で書いたように
「(SDXC、microSDXCは)外部メモリ最大容量製品としての役割を終えようとしている」
だけなのだ。
だが、そもそもSDメモリーカードは今後も存在し続けるのだろうか。それについては楽観視出来ないところだ。
まず標準サイズのSDカードの利用先の需要として大きかったデジカメが急激に衰亡している。これについては先日、ブログ記事を書いた。
・1/2 さらばコンデジ、コンパクトデジタルカメラ~その衰退の一般状況 | まったりハマる生活(個人ブログ)
それから当初はminiSD、その後はmicroSDを採用してきた携帯電話、スマートフォンも、外部メモリを使わない製品が多く登場するようになった。スマートフォン普及に大きな役割を果たしてきたApple製品(すなわちiPhone、iPad、iPod)では当初から外部メモリーカードを採用していない(だからApple製品は嫌いなのだ)。Android製品の中では代表とも言える地位を占めてきたSamsungのGalaxy製品でもフラグシップ製品では2021年から外部メモリーカードすなわちSDカードを利用しなくなっているし、Androidを提供しているGoogleが自ら作り近年存在感を増しているPixel製品もSDカードスロットは当初より搭載されていない。最近の流行りとして折り畳みスマートフォン、フォルダブルスマートフォンが複数のメーカーから登場しているが、外部メモリーカード(microSDカード)を利用できる製品は2024年11月現在、1機種も出ていないようだ。
このように「外部メモリーカード」としてほぼ唯一生き残っている「SDメモリカード」であるが、デジカメの衰亡、スマートフォンでの不採用機種の増加の中、将来は楽観できないように思われる。
7■終わりに
最後の記述でSDカードの将来は予断がならないことを記述したが、これを書いている自分は昔から、外部メモリーカードを使えるということをスマートフォン選びでは重視してきた。どうして外部メモリカードを重宝するのか、それについては以下の記事でくどくどと書いている。
・Android端末の憂鬱。消えていく交換可能バッテリー、超大画面(幅80mm以上)、microSDスロット | まったりハマる生活(個人ブログ)
今後も外部メモリーカードスロットを備えるスマートフォンが継続し、SDカードも存続することを強く願っている。