日本のサブカルチャーとして確固たる位置を占めるようになった「メイド」文化。
特に今では秋葉原の軟派な文化の象徴として、メイド喫茶が大いに知られるようになっている。たとえ実際に「メイド喫茶」へ足を運ばなくても、秋葉原の中心街を歩くとメイドのコスチュームをした女性アルバイトさんが、メイド喫茶のチラシを配ることが何の違和感もなく受け入れられるようになった。
[現代日本の「メイド文化」と森薫作コミック「エマ」]
「メイド萌え」の文化は決してごく新しいものではなく、メイドやメイド服に対しては一般的にフェチ的な魅力があったことはWikipediaのメイドの項目の記述でも分かるが、それはともかく私が今回のブログ記事で紹介したかったのは、とあるコミックである。
それは森薫女史の漫画「エマ」という作品だ。
現代日本の「メイド文化」は明らかに本来の「メイド」よりも極端にフェチ化したものであって、19世紀以前の大英帝国にあった「メイド」というものの実態とは懸け離れていることは、流石に多くの人が感じているであろう。
そんな中で限りなく本来の「メイド」の在り方に近づきつつ、多くの人にとって魅力的な物語に仕上がっているのがこのコミック森薫著「エマ」だ。
私はフェチ化したというか、オタク化したというか、そういう「現代日本のメイド文化」にはあまり...というか、ほとんど興味はない。
これは私がオタク的な文化を蔑むからでは別になく(というのも私自身、オタク的な趣味が多いし...)、単に個人的に興味の対象ではないだけである。
そんな中でこのコミック「エマ」だけは友人に紹介されたときに、興味が沸いたし、面白いと思ったし、応援したいと感じて2004年からコミックを買うようになった。
もともとこのコミックに引かれた理由は舞台が19世紀イギリスすなわちビクトリア時代であり、その時代というのは私にとってはアーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズの舞台であり、どこか惹かれるものがあったからだろう。
[コミック「エマ」への支持]
このコミック「エマ」であるが、私が今更紹介しなくても、平成17年度文化庁メディア芸術祭漫画部門で優秀賞を受賞しており、また「英國戀物語エマ」としてアニメ化もされた。
原作コミック「エマ」に対する評価はWikipediaの「メイド」の項目がなかなか客観的で宜しそうである。
その反動というわけでもないのであろうが、2002年に連載が開始され、2005年にはアニメ化された漫画『エマ』(作者:森薫)は、メイドブームの隆盛を受けて成立した作品といえるが、当作品はいわゆるオタク的文脈によって解釈される「(現代の)メイドもの」とは一線を画した時代考証(※)によって、ヴィクトリア朝末期の英国ロンドンを中心とした当時の風俗を精緻に描き、高い評価を得た。
(略)
※ ヴィクトリア朝時代の風俗については、同時代ファン(日本の例に例えるならば”幕末マニア”などが近いと言えるだろうか)や、同時代を舞台とするサー・アーサー・コナン・ドイルによる推理小説『シャーロック・ホームズ』シリーズ(ただし、ホームズシリーズは同時代に書かれた作品であり、後世の考証によって成立した作品ではない点に注意を要する)などのファンが詳細な考証をまとめた資料が国内外を問わず多数出版されており、「エマ」における考証も森個人の手柄というよりはそれらの孫引きに過ぎないといった指摘も存在する。また実際に資料側の誤りを幾つかそのまま作品に登場させてしまっているとする個所も指摘されており、あくまで”オタク的サブカルチャーにおけるメイドもの漫画としては”一線を画した時代考証に留まる、という点は理解しておく必要があるだろう。
すなわちサブカルチャーとして蔑まれがちな「現代日本のメイド文化」に関係する作品の中では森薫女史の「エマ」は特異な位置づけと評価を得ていると考えてよいだろう。
[寄り道一般論:アニメ化批判と映像化での幻滅]
さてアニメ化さたもの、すなわち「英國戀物語エマ」についてであるが、私はアニメ化にはかなりウルサイ。
というのもアニメーションについては表現技法の一つとして、いわばアートの一つとしてその価値に関心を持つようになったため、単に漫画の絵を動かしました、っていうアニメ化については非常に批判的なのである。
近年、デジタル技術が進んだためか、日本のアニメ・漫画文化が世界で価値を認められたからか、コミックを安易にアニメ化する風潮が著しい。少しでも名が売れると、すぐにアニメ化されてしまう。これが私はかなり嫌いである。
もともと(昔は)書籍派だったので、映像化されてガックリ、という経験を子供の頃から経験していて、そういう体験が土台にあるらしいが、成人になってからも「Masterキートン」のアニメ版などで嫌というほど感じさせられた。
ただし逆に、アニメ化したものがなかなか優れているとすごく嬉しくなってしまう。その典型は「GunslingerGirl」というコミックのアニメ化で、私はこのコミックは好きだったのだけど、しかしハマるには今一歩だったのだが、アニメ作品のお陰でハマってしまい、
「GunslingerGirl私的紹介サイト」
なるものを作って、なぜこのアニメを評価するのか、滔々と書いてしまっているくらいである。
[アニメ「英國戀物語エマ」]
さて閑話休題。
森薫女史のコミック「エマ」のアニメ版である「英國戀物語エマ」は2004年に12話でアニメシリーズ化された。
が、最近のアニメ化ではありがちであることに、まだ未完の段階でのアニメ化だったこともあり、全く尻切れトンボの終わり方だったのだ。(ちなみに私はまだ6話までしか見ていないのだけど。)
終わり方が中途半端だったのはともかくとして、内容的にはどうかというと、これがナカナカの出来である。GunslingerGirlのように原作を越えたアニメになっているとは言い難いが、少なくとも原作の雰囲気は全く壊していないし、作品の性質上、時代考証などをする面倒を考えれば原作の雰囲気をきちんと維持しているだけでも大変な労力だったと思われる。
絵の雰囲気は往年の世界名作劇場アニメ(カルピス名作劇場、ハウス世界名作劇場)の雰囲気にすごく近く、描写の安定には不安感が全くない、すなわち絵の崩れや乱れなどが全くなく、背景等などを含め、質が高いのも、世界名作劇場の彷彿とさせる。
考えてみると世界名作劇場はその内容的に「大人の恋愛もの」という要素は皆無に近かった。そう考えると「英國戀物語エマ」は「往年の世界名作劇場のメロドラマ版?」っつうのが一言で言ってみれば近い雰囲気である気がする。
ただしそんなこんなもあって、画面の激しい動きなど、ある意味「アニメという表現技法ならではの迫力、面白さ」という点については欠けざるを得なくなっている。
まあこれはそもそも題材からの問題であるので、仕方ないと言えようか。
[この記事を書いた理由]
さて、今回この記事を書く気になったのは、尻切れトンボで終わった最初の12話の続編(第二期)が制作されることが決まり、また最初の12話がDVD-BOXで比較的廉価に販売され始めたからだ(左下商品)。
amazonの予約では25%の11813円となっていてこれは単品の値段が限定版では6000円近く、通常版でも5000円近くし、全6巻構成だったことを考えると相当安いと思う。
コミック版の「エマ」を気に入った人なら、十分に買う価値ありの値段では無かろうか。また、第二幕の制作が決まったのは前述した平成17年度文化庁メディア芸術祭での受賞なども後押しになったことがあると思うのだけど、第一幕の出来もほどほど(誉めているのである)だったわけだから、第二幕も大いに期待したいところである。
刮目して待つべし!
[コミック版の「エマ」について]
さて、実は上の中でコミック「エマ」に関する批評はあまりしなかった。それについてちょっと述べる。
最初の方で述べたように、このコミックのメイドの描き方はサブカルチャー化、オタク化した「日本現代メイド文化」のメイド像とは一線を画しているわけだが、ではこのアニメの本質は何かというと....一言で言うなら恋愛物、メロドラマである。
19世紀のビクトリアン文化、特にメイド描写の緻密さの点を除けば、このコミックの内容はそれ以上でもそれ以下でもない。(と言い切るのは言い過ぎかもしれないし、恋愛とは無関係の「イイ話」の部分もあるのは確かなのだけど....)
実は私は「恋愛物」が苦手である(^_^;)。小説にせよ、漫画にせよ、映画にせよ、アニメにせよ、「恋愛物」にはそっぽを向く傾向がある。
無論、たとえば私が昔ハマっていた宮崎駿アニメではそのかなりの作品に(少年少女のものを中心に)「淡い恋愛もの」の要素を含んでおり、その強さはさまざまだが、しかし「恋愛」の要素がストーリーの中心に置かれるものはほとんどない。故・近藤喜文監督、宮崎駿監修の「耳をすませば」くらいか。
まあそんなわけで、私は基本的に恋愛物が中心のストーリーは苦手なのである。そんなわけだから、実はこの「エマ」についても、どこかしらハマれない感じなところはあるし、突き放して見てしまう感じがあるようである。
そのような感情を越えてでもやはりこの作品を応援・支持したくなるのは、やはりそのビクトリアン雰囲気の心地よさ、にあるのであろう。
[結論]
まあそんなわけで、19世紀大英帝国のビクトリアン的な雰囲気もしくは一般的な恋愛物ドラマのどちらかに興味を持っている人なら、この作品はそれなりに楽しめるんではなかろうか、ということで紹介した次第だ。
[2008/06追記]
遅ればせながら以下の記事を知った。
・米国図書館協会「エマ」「放課後保健室」「いばらの王」推薦作品に
http://animeanime.jp/news/archives/2008/01/post_279.html
この発表は
・米国図書館協会・推薦グラフィック・ノベル:ノミネートリストに日本産マンガ4作品エントリー
http://d.hatena.ne.jp/ceena/20051108/1131455997
の記事によると2005年から準備されていたもののようで、すなわち単に2008年の発表、というよりも歴代のコミック作品の中で、ということらしい。
「エマ」の評判については、平成17年度の文化庁メディア芸術祭漫画部門で優秀賞を受賞したことを本記事でも触れたが、上記記事はこの「エマ」という作品が日本だけでなく世界(海外)にも通用することを示した嬉しい出来事だろう。
特に今更言うまでもなく、米国はイギリスが派生して出来た国。アメリカの人々はイギリスに対しては一種ノスタルジックな思いがあると思われ、持っている知識としては当然少なくないはず。(ましてや一般の人よりも知識の多い図書館関係の人であるわけで。)
そういう人たちが日本人作家が描いた「英国ビクトリア時代の物語」を青少年への推薦図書にしたのだから、実に素晴らしいことだ。
コメント
女性の目から見ても「エマ」はイイ
とのコトです。(家内評)
メイドってコトではなく、「午後のヨロメキドラマ」的なとらえ方が適当だそうですが…