[漫画・アニメ] あずまんが大王/ 今更シリーズ第一弾 (前編)

 私のブログの「今更シリーズ」の記念すべき第一弾は
あずまきよひこ氏 「あずまんが大王
である。

[推敲度 4/10]
画像

(「今更シリーズ」の記念すべき第一弾は本当はアニメ『攻殻機動隊』シリーズになるはずだったのだが、GyaOでのアニメ版『あずまんが大王』の無料配信再開を知ったので『あずまんが大王』の方を急いで書くことにした。)

 『あずまんが大王』はあずまきよひこ氏原作の漫画作品である。後に錦織博監督の下でアニメ化もされた。

 その内容はというと、とある高校の仲良し女子6人組(7人組)の、3年間の女子高校生ライフを描いたコメディ作品。一応4コマ漫画なのだけど、それぞれの4コマ漫画が完全に独立はしておらず、ストーリー的に繋がりがある。

 全4巻ですでに完結している。特徴は詳細で後述するが、その中の一人が小学生から高校への飛び級者であることを除けば、フィクションらしいことはあまりない。

 この作品、「萌え」という言葉と共に広がったそうで、その言葉を忌避する方々や、漫画的な絵柄(目が大きいキャラ)が苦手な方々は抵抗がある方もいるかもしれないが、ネット友達に「萌え萌えな人」と形容された私(笑)ではあるけれども、その言葉と本作品の繋がりは、今ひとつ、ピンと来ない。私が好きな作品で「萌え」という言葉で表せるものとしては「GunslingerGirl」の方が遙かにそうだと思われる。

 また、この作品は「日本のメディア芸術100選」のコミック部門の一作品に選ばれている。

[無料で試読、視聴してみよう!]

 「あずまんが大王」は基本的にギャグ漫画なので、面白さを感じて頂くには読んで頂いた方が早いと思うのだけど、まずコミックについては、作者であるあずまきよひこ氏のサイトで、ちょっとだけサンプルが読める。

 (1巻より)
 (2巻より)
 (3巻より)
 (4巻より)

 またそのコミックを原作としてアニメ化されたものが、2007年9月現在、インターネット上のテレビ「GYAO」で無料配信されている(期間限定)。

インターネット無料動画サービスGYAO
アニメーション あずまんが大王
http://www.gyao.jp/bkids/azu/index.php

 アニメについては別途記事を書こうと思うのだけど、このアニメ化作品はなかなかな出来で、原作の面白さをうまく伝えているので、ブロードバンド環境で興味を持たれた方はちょっと覗いてみてほしい。


(上のDVDはDVD-BOX版の3セット。ばら売りのものはこちらです。)

 さて、原作のコミックにせよ、アニメによ、コメディ作品という性質上、実際に読んだり見たりするにしくはないと思うのだが、ここでは私が紹介すると言うことで、その面白さについてちょっと考えてみよう。

[個性の光る登場人物たち]

 まずこの作品が優れているのは、登場人物たちがとても個性的であることだろう。「あずまんが大王」では7人の女子生徒と2人の女先生が主な登場人物であるが、とにかく彼らは一通りユニークなのだ。

画像 何人かを挙げてみると、まず「ゆかり先生」こと谷崎ゆかりは全く「先生」らしからぬ、英語の女教師で、我が儘放題、好き放題のぶっ飛んだ先生だ。口は悪い、すぐ怒る、生徒は叩く、暑ければ授業を投げ出してプールに水泳に行く、生徒に誕生日プレゼントはねだる、などなど、こんな先生いたら問題だろう、と思ってしまうような先生だ。

 ただし、昨今、問題教師がしばしばマスコミに取り上げられるが、そういう題材にありがちな「破廉恥さ」はこの先生にはない。ただただ、自己中心的な、子供みたいな先生なのだ。

 次に生徒では、女子高生6人の中、おそらく主人公的な位置にあるのが、小学校4年生から高校に飛び級で入ってきた「ちよちゃん」こと美浜ちよ、である。

 彼女は存在自体が特殊な一方で、人間的には普通の、というより、勉強も学級委員も家事も、周りの人への配慮などもこなす、まるで大人のような「女の子」である。

 周りの高校生やゆかり先生などが、非常にマイペースで子供っぽいところがあるのに、逆に(年齢的には)小学校高学年のちよちゃんが非常に大人びている、そんな逆転したところにも、この漫画が面白い部分があるに違いない。

 「あずまんが大王」主役級の女子高生6人の中で、もっとも異彩を放っているのが「大阪」こと春日歩である。彼女は入学早々、大阪から転校してきたのだけど、滝野智から単純に「大阪」というあだ名を付けられて、それが定着してしまう。

 しかし彼女が面白いのは....
 一般に、小説、映画、漫画、などなどの中では「関西人」というと、ステレオタイプ的な人物描写がされがちだ。すなわち
「うるさい」
「早口」
「漫才的なやり取り」
などなどであろう。

画像 だが彼女はそんなイメージとはかけ離れた、のんびり屋さんで、たとえば考え事をしていて信号を渡りそびれてしまったり、授業中、すぐに居眠りをしてしまうような、おっとりな性格だ。(まあ関西の笑いの特質を「ボケとツッコミ」だとすれば「ボケ」に相当するキャラクターと言えなくもない。もっとも個人的にはボケともどこか違う気がするのだが...)

 しかも他人が思いつかないような、突拍子もないことを考えたり、思いつきが他人と少しずれていたりする。ユニークなエピソードには事欠かない。

 「あずまんが大王」のキャラはみんな個性的なので、それぞれのキャラにファンは多いのだが、「大阪」こと春日歩は人気投票ではほぼ必ず一位になるようだ。登場回数としては、特異なキャラである長浜ちよや、笑いを提供する滝野智、ツッコミ役の水原暦に比べてさほど多くないと思うのだが、圧倒的な人気を集めることだけでも、ユニークさが分かるに違いない。

[登場人物たちの「らしくなさ」]

 こう書いてきて気がついたのだけど、この「あずまんが大王」の面白みには、登場人物たちが、「らしくない」すなわち一般的なステレオタイプ的な性格からは離れているところにもあるような気がする。

 すなわち
・「先生」らしからぬ、谷崎ゆかり
・「小学生」らしからぬ、美浜ちよ
・「大阪人」らしからぬ、春日歩(大阪)
そして
・「格好いい姿」に似つかわしくない、可愛いモノ好きな榊さん
などなど。

 これらの「意外性」がこのコミックの一つの面白みになっているように思う。

 だが、大事だと思われるのは、これらの「らしくない」は、決して現実世界にないものではなくて、むしろ日常ではそちらが当たり前であるという点だ。すなわち私たちは意識無意識なななかで、立場や見た目で人を判断しがちであるけれども、実際にはそんなのが当てはまらないことが多い。
 意外性を感じさせながら、しかし非現実的なわけではない。そういう部分がキラリと光っているように思うのだ。

[あなたの高校時代は...]

 以下の話は中高へ通ったことのある人向けの内容になってしまうのだけど、中学・高校へ行っていた人々にとって、それらの学生時代というのはどういう思い出があるだろう?
(この「あずまんが大王」の舞台は高校なのだけど、内容的には中学でも十分通用するだろう。)

 この漫画「あずまんが大王」は単に舞台が高校なだけではなく、登場人物達の3年間が4コマ漫画で4冊という限られた分量の中にも、きっちり描かれている。
 入学、夏休み、体育祭、文化祭、それらの毎年の繰り返しに、3年生の修学旅行、そして卒業。

 何しろコメディであるから、そこで描かれている登場人物達のやり取りの内容は「そうそう、こんなことあったよね~」っていう内容ではないのだが、しかしその舞台と、そこで行われる年中行事は私たちにとってとてもリアリティのあるものだ。

 その結果、この作品を楽しむ私達は、自分の中学生時代や高校生時代を、この作品によってどこかで補完してしまうところがあるような気がする。

 「自分たちの中学・高校時代も、こんなに楽しかったらなあ」とか「こんなんだったらもっと楽しかったかもなあ」とか、そういう意識無意識なこのような思いが、この作品を一層私達にとって身近に感じさせているように思うのだ。

[漫画は現実逃避?...でも、想い出は美しく、楽しく...]

画像 ネットサーフィンをしていたら、この作品について「コミックを読んでいたときには現実逃避作品だと感じたのだが、アニメ版を見ていたら、それでもいいではないかと思うようになった」というコメントがあった。(ごめん、場所が失念。調べられなかった。)

 現実逃避が悪いことなのかどうか、私には分からない。各人が持っている現実のヘビーさにもよるだろう。

 けれども、「想い出」特に中学・高校の想い出というのは大人の心の中では過去のものであることが多いし、所詮は過去に過ぎないものである。
 そして、もう2度と取り戻しが出来ないものだ。

 思春期という、微妙な感情の多いそれらの時期については、多くの人が何かしらのほろ苦さを持っているのでは無かろうか。
 それにはいろいろな意味・理由からの「ほろ苦さ」があると思うのだけど、いずれにせよ、もう2度とリセット出来ないというのはどこかで強い哀愁を感じさせるものがある。そういう感情を十二分に噛み締めるのは、未来を後悔の無いように生きようとする上では確かに重要なことかもしれないが、でも一方でそういうどこかで苦い思いだけを抱え続ける義務もあるまい。

 それならば、人間には想像力があるのを活かして、この「あずまんが大王」という漫画・アニメを使って、そこでの登場人物達がエンジョイする高校生活を、読者も楽しんでしまえば良いのではないかろうか。

 ワハハ、と笑って、あたかも自分の中高生時代もそんな風に楽しかったかのように、錯覚させてしまうだけのパワーが、この作品にはあると思うのだ。
(後編に続く)

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